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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)2993号 判決

原告 株式会社 三貴

右代表者代表取締役 木村和巨

右訴訟代理人弁護士 才口千晴

被告 東京栄光時計株式会社

右代表者代表取締役 小谷稔

右訴訟代理人弁護士 秋山知也

主文

一  被告は、原告に対し、金二四八万一、六七五円およびこれに対する昭和五三年四月九日から支払ずみまで、年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金九〇四万八、六〇〇円およびこれに対する昭和五三年四月九日から支払ずみまで、年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、宝石、貴金属、装身具等の販売を主たる業務とし、都内ならびに全国に数十の自己またはフランチャイズ店舗を有する株式会社であり、被告は、時計、装身具等の卸販売を主たる業務とする株式会社である。

2(一)  原告会社の商品開発部長渡辺修身(以下、渡辺部長という。)と被告会社の営業部次長佐々木克昭(以下、佐々木次長という。)、営業担当者駒場英勝らとの交渉の結果、昭和五二年八月四日、原、被告間において、同年八月以降、毎月、原告の発注にもとづき、被告が、その取扱商品であるセイコー・ウォッチ等の時計を左記条件で、原告に対し、継続的に給付する旨のいわゆる継続的供給契約が締結された。

(1) (手形条件) 毎月二〇日締切り、末日起算、一二〇日手形、手形渡し日は翌月一七日。

(2) (歩引条件) セイコー商品は、上代の〇・六五掛で二パーセント歩引、外国時計商品は、上代の〇・六六七掛で一五パーセント歩引。

(3) (その他) 被告に対する担保の提供は、不要。商品配送は、被告が原告の指定店に直送。荷送り用ゴム印は、被告が作製。原告は、被告に指定店の各住所を通知。

(二) 原告会社の渡辺部長は、昭和五二年八月一三日、被告会社の駒場英勝、佐々木次長および仕入部次長長谷川弘定らと面談し、同人らの求めに応じて、昭和五二年九月から昭和五三年二月までの間の時計の買付予定数は、昭和五二年九月約一、〇〇〇本、同年一〇月約二〇〇本、同年一一月約一、〇〇〇本、同年一二月約五〇〇本、昭和五三年一月約二〇〇本、同年二月約一、〇〇〇本である旨回答するとともに、前記継続的供給契約にもとづき、被告に対し、昭和五二年八月分の商品として、合計一一、八二五、〇三〇円相当の時計五二七本を発注し、同年九月二日、被告から右商品の納入を受け、同年一〇月一七日、右金額を額面とし、昭和五三年一月三一日を支払期日とする約束手形一通を、被告に対し、振出し、交付した。

3(一)  被告は、昭和五二年一一月中旬に至り、突如、原告に対し、特段の理由もないのに、同年九月分以降の取引については、現金決済でなければ応じられない旨一方的に通告し、本件継続的取引を拒否した。

(二) 本件の如き継続的契約を解除(解約告知)するについては、原告に債務不履行の事実がなければならないことはもちろん、被告は、相当の期間を定めて、その履行を催告し、その期間内に履行がないときに限って解除(解約告知)をなし得るものである。ところが、被告は、原告になんらの債務不履行の事実が存在しないにもかかわらず、催告もなしに、一方的に本件契約を破棄したものであって、かかる被告の所為が本件契約の解除(解約告知)として有効でないことは明白である。

仮に、被告が本件契約を解除(解約告知)し得るとしても、それは、取引開始後、原告に著しい信用不安が発生した等、取引開始時の事情に変更が生じたか、あるいは、本件契約関係の存続を被告に強要することが不当であるが如き信頼関係の破壊がある場合に限って許されるものである。しかるところ、本件にあっては、かかる事情の変更も、原告に信頼関係の破壊にあたるべき重大またはやむことを得ざる事由も存在しないのであるから、この点からも、被告の本件契約の一方的破棄は有効といえず、昭和五二年九月分以降の商品を原告に納入しなかったことは、被告の債務不履行にほかならない。

4(一)  日本の時計メーカーは、セイコー社が、そのシェアーの六〇パーセント以上を保育する寡占産業であって、セイコー製品は、服部時計店が一手に販売部門を引受け、その下に、被告をはじめとする全国数十社の代理店(問屋)があり、これらが小売店に対し、セイコー製品を卸売するという流通機構になっているところ、小売業者は、前記代理店を通じてのみセイコー製品を仕入れることができるのであって、東京地区においては、被告をはじめとする十数社のいずれかの代理店から、セイコー製品を仕入れて販売する以外、同製品を小売する手立てはない。そして、最近、独占禁止法の改正により、寡占対策のため、独占的状態にある事業分野として腕時計、置時計の製造業が指定されるに至ったことと呼応して、セイコー製品の総販売元である服部時計店は、時計問屋の再編成と称して、従前、全国に数十社あった代理店を整理統合等して、地区別に大同団結させるに至った。これは、問屋の過当競争防止、販売強化等を標榜しているものの、実質的には、一地区一代理店制というテリトリー制の実施であり、また、小売店の系列化であるといわれている。かかる状況の中にあって、原告が被告から本件継続的取引を理由もなく一方的に破棄されたということは、原告においてセイコー製品を販売するルートを完全に断たれたということになる。現に、原告は、被告から昭和五二年一一月中旬、本件取引を破棄され、その後、被告の関連会社である栄光時計株式会社からも、昭和五三年五月二七日、同様に継続的取引を破棄されるに及んで、以後、セイコー製品は、被告からは当然のこと、他の代理店からの仕入も不可能となった。

したがって、被告は、本件取引破棄に伴い原告に生じた直接損害のみならず、逸失利益も賠償すべきものである。

(二) 原告は、被告から仕入れるセイコー・ウオッチ等の時計を、昭和五二年度中に五店舗、同五三年度中には全国一〇店舗で売却する計画であり、右売買によって一ヶ月平均一〇〇万円の純利益をあげ得ることが明白であったし、被告においても、これを十分予想し得たものであるところ、原告は、被告の本件継続的取引の一方的破棄により、多額の得べかりし利益を失った。

右逸失利益のうち、昭和五二年一二月から昭和五三年一一月までの一年間分は、九〇〇万円である(なお、前記2(二)記載の昭和五二年九月から昭和五三年二月までの買付予定数どおり、時計が被告から給付されておれば、原告は、経費控除後、少なくとも、八、二七二、五〇〇円の純利益をあげ得たものであるから、被告には、少なくとも、右金額の損害賠償義務がある。)。

5  よって、原告は、被告に対し、右逸失利益のうち、九〇〇万円と被告の本件契約破棄に伴い原告が支出した諸費用四八、六〇〇円の合計九、〇四八、六〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和五三年四月九日から支払ずみまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、被告の業務内容は認めるが、その余の事実は不知。

2  同2(一)の事実は否認する。

3  同2(二)の事実のうち、昭和五二年八月頃、原告から、合計一一、八二五、〇三〇円相当の時計の発注を受けて、これを納品し、原告主張日時に、その主張の如き約束手形の振出し、交付を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

原、被告間の右取引は、単純な売買契約であって、原告主張の如き継続的供給契約にもとづくものではない。

4  同3(一)の事実は否認する。

被告は、昭和五二年九月二〇日、原告会社の渡辺部長が被告会社を訪れた際、現金取引を申し入れ、もし、信用取引の場合は、担保を提供されたい旨申し入れたことはあるが、原告主張の如く、同年一一月中旬に至り、突如、一方的に継続的取引を拒否した事実はない。

5  同3(二)は争う。

6  同4(一)の事実のうち、原告において、セイコー製品の仕入、販売が不可能となったとの事実は否認し、その余の事実は不知。

7  同4(二)の事実のうち、被告が原告の収益を予想し得たとの事実は否認し、その余の事実は不知。

8  同5は争う。

三  被告の主張

本件取引に際し、原、被告間においては、取引商品の種類の限定、取引数量、取引期間、与信の限度額等について全く合意がなされていないし(継続的供給契約であれば、かかる点についての合意がなされるのが通常である。)、また、被告が、原告に対し、買受義務を負うべき商品数量や他の卸売業者からの買受を制限する等の負担を課したこともない。かかる取引において、被告が一方的に原告の注文に応ずべき義務を負うとされるならば、被告だけが莫大な危険負担を強いられることになるのみでなく、取引の実情からみても、多種類に及ぶ商品について、被告が原告の注文に常に応ずることは不可能である。

要するに、原告の主張は、自己本位の一方的なものであり、信義則上、許されないというべきである。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張事実のうち、取引期間について原、被告間に合意がなかったことは認めるが、その余は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  被告が、時計、装身具等の卸販売を主たる業務とする株式会社であることは、当事者間に争いがなく、原告が、宝石、貴金属、装身具等の販売を主たる業務とする株式会社であることは、《証拠省略》により認められる。

二  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和五二年五月頃、長野県内に伊那店と飯田店を新規開店するのに伴い、新たに、商品として時計を扱うことを企図し、その頃から、原告会社の中野修および河野善四郎が被告会社を訪れ、同社の営業部特販課係長の駒場英勝と時計購入につき交捗したが、当初、駒場から「新規取引は、現金決済にするか、信用販売の場合は担保を提供してほしい」旨求められ、取引の条件につき話が進展しなかったので、同年六月頃から、原告会社の商品開発部長である渡辺修身が、被告との交渉にあたることになり、駒場とその後、数回にわたり交渉し、無担保で信用販売してほしい旨申し入れた。

2  原告会社の渡辺部長は、昭和五二年八月四日、被告会社において、同社の販売部長奥田純一、仕入部次長長谷川弘定、営業部次長佐々木克昭および駒場と、原告の新規開店する前記伊那店および飯田店における商品用の時計購入について交渉した結果、原、被告間において、同年八月以降、毎月、原告の注文にもとづき、被告が、その取扱商品であるセイコー・ウォッチ等の時計を左記条件で、原告に対し、売渡すとの合意に達した。

(一)  (手形条件) 毎月二〇日締切りで、末日起算とし、期間一二〇日の約束手形を、翌月一七日に被告に振出し、交付する。

(二)  (歩引条件)セイコー商品は、上代(小売定価)の〇・六五掛で、かつ、二パーセント歩引し、外国時計商品は、上代の〇・六六七掛で、かつ、一五パーセント歩引する。

(三)  (その他の条件) 被告に対する担保の提供は、しなくてよい。商品の配送は、被告の方で直接行なう。

3  原告会社の渡辺部長は、昭和五二年八月一三日、被告会社において、同社の専務原嘉一郎、長谷川次長、佐々木次長および駒場と会って、同月四日に話合った前記2記載の取引条件を再度確認し、被告の求に応じ、昭和五三年二月までの買付予定数につき(駒場は、予め、渡辺部長に対し、原告における商品の品揃えをよくするためと、被告の売上予想を立てるために、原告の時計買付予定数を知らせるよう求めていた。)、昭和五二年九月は約一、〇〇〇本、同年一〇月は約二〇〇本、同年一一月は約一、〇〇〇本、同年一二月は約五〇〇本、昭和五三年一月は約二〇〇本、同年二月は約一、〇〇〇本である旨回答するとともに、被告に対し、昭和五二年八月分の商品として、合計一一、八二五、〇三〇円相当の時計五二七本(約三〇〇種類)を注文し、同年九月二日付で、被告から右商品の納入を受け、同年一〇月一七日、右金額を額面とし、昭和五三年一月三一日を支払期日とする約束手形一通を、被告に対し、振出し、交付した(右事実のうち、被告が、原告主張の日時頃、原告からその主張する時計の注文を受けて、これを納品し、原告主張どおりの約束手形の振出し、交付を受けた事実は、当事者間に争いがない。)。

4  被告は、従前、小売店と継続的取引をする場合、その契約内容を書面化することはほとんどなく、口頭または電話で注文を受けて取引を続けるというのが実情であった。ところで、被告は、原告と本件取引をする前に、帝国興信所を通して、原告の信用調査をしたが、前記のとおり、昭和五二年八月分の取引は、期間一二〇日の手形による信用販売を行なった。被告としては、小売店と新規取引をする場合、継続取引を希望するのが普通であったが、被告会社の本件取引担当者であった駒場も、交渉当時、原告との取引は、できるだけ長期にわたって行ないたいと思っていた。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右事実によれば、原、被告間には、遅くとも、昭和五二年八月一三日、同年八月以降、毎月、原告の注文にもとづき、被告が、その取扱商品であるセイコー・ウォッチ等の時計を前記2記載の取引条件で、原告に対し、継続的に売渡す旨のいわゆる継続的供給契約が締結されたものと認めるのが相当である。

被告は、原、被告間においては、取引期間や与信限度額等の合意がなく、また、取引の実情からみて、原告の注文に常に応ずることは不可能であるので、原告主張の如き継続的契約関係を認めることは、被告だけに莫大な危険負担を強いるものであり、原告の主張は、信義則上、許されない旨主張するが、契約締結後、原告に信用不安が生ずる等の著しい事情の変更があれば、後述するとおり、被告は、継続的契約を解除できるものというべきであるし、また、商品の在庫量等の関係上、原告の注文に応じきれず、納品できない場合があっても、継続的取引関係の特質上、やむを得ないものとして、債務不履行とはならないことも、当然あり得るわけであるから、継続的契約関係を認めたからといって、被告にのみ危険負担を強いるものとはいえない。したがって、被告の前記主張は採るを得ない。

三  《証拠省略》によれば、原告の注文により、被告は、前記二3記載の昭和五二年八月分の納品の他に、同年一〇月頃にも、原告の社員が結婚する際の引出物に使うということで、右八月分と同様の取引条件で、時計を納品したことがあったが、同年一一月中旬頃、被告は、原告に対し、昭和五二年九月以降の取引については、現金決済にするか、信用販売の場合は、担保の提供がなければ、取引はできない旨通告し、原告の再三にわたる時計購入の注文に全く応ぜず、その理由は、被告から原告宛の昭和五二年一二月二二日付内容証明郵便によれば、「債権確保の点で不安がある」ということであったこと、これに対し、原告は、いかなる事情の発生により債権確保に不安が生じたのか具体的に明らかにしてほしい旨被告に求めたが、被告は、この点について、なんらの回答もしなかったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、継続的供給契約において、契約締結後、当事者の一方に資力不足等の信用不安が発生する等、著しい事情の変更があった場合には、契約の存続により不利益を受ける相手方は、契約を解除し得るものと解するのが、信義則上相当であるし、また、解除しないまでも、かかる事情の変更ないし相当の事由がある場合は、新たに、担保の提供を求める等有利な取引条件への改定を求め、これに応じないときは、以後の取引を拒絶しても、債務不履行の責任は負わないものと解すべく、これに対し、前記の事情の変更ないし相当の事由がないのに、右条件の改定に応じないとして、取引を拒絶した場合には、債務不履行の責任を負うものと解するのが、信義則上相当であるというべきである。

これを本件についてみるのに、昭和五二年八月の本件取引開始後、原告に資力不足等の信用不安が発生する等、信義則上、継続的契約関係の存続を認め難い程の著しい事情の変更があったとか、取引条件の改定に応ずべき相当の事由が生じたとのことを認めるに足る証拠は全くないし、もちろん、原告に債務不履行の事実があったとの主張、立証もない。却って、前記二4で認定した事実に、《証拠省略》を総合すれば、原告は、本件契約締結の前後を通じ、年々その業績を伸ばし、売上高、従業員数、店舗数等も順調かつ大幅に増加させていること、被告は、原告の信用調査をした上で、本件継続的取引を開始しているものであるところ、その後、原告に信用不安が生じたことを示す資料は見当らないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうとすれば、被告が、原告に対し、取引条件の改定を求め、それに応じないとして時計の納品をしなかったことは、継続的契約締結後、特段の事情の変更ないし相当の事由がないのになされたものというべく、右は、被告の債務不履行に該当するものといわざるを得ない。

四1  《証拠省略》によれば、セイコー社製作のセイコー・ウォッチ等の時計は、服部時計店が総販売元となり、その下に、卸売商たる代理店が全国に数十社あって、小売店は、右代理店から仕入れるのでなければ、セイコー製品を取り扱えないという流通機構になっているところ、昭和五一、二年頃から、服部時計店系列で、代理店の整理統合、再編成の動きが強くなり、代理店間での歩引競争がやりにくくなってきたこと、被告ならびにその関連会社である栄光時計株式会社は、セイコー製品の卸売業者としては最大手に属し、両者の売上高を併せると日本一であること、しかして、被告から取引を拒絶された原告が、その後、他のセイコー製品の代理店との間で、前記二2記載の被告との取引条件を下回らぬ条件で、容易かつ迅速に継続的取引契約を締結することは、困難な状況であること、現に、原告は、その後、他の代理店との間で、セイコー製品購入の交渉をしてみたものの、成功しなかったことが認められ(る。)《証拠判断省略》

2  前記1記載の如きセイコー製品の卸販売の状況に照らせば、原告は、被告から時計の納品を受けられなかったことにより、少なくとも、後記の得べかりし時計の販売利益を失ったものというべく、これは、被告の債務不履行にもとづき原告の蒙った損害であるといわざるを得ない。

すなわち、前記二2、3記載の本件契約の取引条件および被告の求めにより知らせた昭和五二年九月から昭和五三年二月までの時計の買付予定数を勘案して、原告の得べかりし利益を計算すると、左記のとおりとなる(なお、証拠として、《証拠省略》を用いる。)。

《証拠省略》を総合すれば、原告は、被告との今回の取引で、はじめて時計を商品として取り扱ったものであって、今までに時計の販売実績が全くないのみでなく、時計販売の知識、経験も乏しいので、買付予定数どおりの仕入、販売が、当初の思惑どおり順調にいくとは限らないことが認められる。

そうとすれば、控え目にみて、原告は、昭和五二年九月から昭和五三年二月までの買付予定数(これに相当する時計の小売定価は、一〇一、五〇〇、〇〇〇円)のうち、高々三割程度の商品(その小売定価は、三〇、四五〇、〇〇〇円)の仕入、販売が可能であったとみるのが相当である。

右仕入分の時計を、二割引で顧客に売却したとすると(《証拠省略》によれば、原告は、昭和五二年八月に被告から仕入れた時計を、相当程度割引販売したことが認められる。)、その売上高は、二四、三六〇、〇〇〇円である。

30,450,000円×80/100=24,360,000円

右売上高に対応する仕入高は、約定の掛率(〇・六五)と歩引率(二パーセント)により計算すると、一九、三九六、六五〇円となる。

30,450,000円×0.65×0.98=19,396,650円

右売上高から仕入高を差し引くと、荒利益は、四、九六三、三五〇円となるが、経費を、その半分とみると、原告の得べかりし純利益は、結局、二、四八一、六七五円となり、原告は、少なくとも、右と同額の損害を、被告の債務不履行により蒙ったことになる。

なお、原告は、被告の本件契約破棄に伴い、諸費用として四万八、六〇〇円の支出をしたと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

五  以上の事実によれば、本訴請求は、前記二、四八一、六七五円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和五三年四月九日から支払ずみまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき、同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中田昭孝)

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